miyajima/weblog

2005-01-19

宇宙おじさん

忘れないうちに昨年のことを覚え書き・・・。
2004年末、GSDの日本人仲間の若頭KOBA氏のはからいで、日本の先端科学研究所から石原教授をGSDに招き、月面に建築をつくる可能性について講演をいただいた。

The Moon
開演10分前に部屋に入るとなんと僕が一番乗りで、広々とした部屋には一人スーツを着た初老紳士がいるだけ。どちらかといえば日本企業のビジネスマン風である。部屋を間違えたかと思ったが、おだやかな”Welcome” の呼びかけに「こんにちは」と応えて席に着く。講演の参加者は予想に反して6人(!)という前代未聞の少数先鋭(笑)だった。忙しい時期ということもあったのだが、こういった抽象的な内容は建築・ランドスケープ学生の気を引くにはなじみが薄かった、ということか。しかしそれをものともせず、自らOHPシートを手に(助手もなく)直立し講演をされるのには恐れ入った。侍である。

それはともかく、講義の内容も前代未聞の話題だった。月面の環境、資源、そして現在開発されているマテリアルに触れ、過酷な月面の環境に耐えうる材料の技術開発されている。それがまた地上にフィードバックされるという流れを予感をさせる内容であった。

このスーパー・ハイテクマテリアルは、ひとつは素材自体はCSi, 英語ではSilicon Carbide, 日本語では炭化ケイ素といい、それをダイアモンドなどで繊維状に崩し繊維化したもの。それ自体は普通の編み機などで編むことが可能、特定の形にしたところである液体(みそ)に浸けてから焼くらしい。極低温から極高温まで耐えることができ、その耐久温度は2800度。強度も相当強く、しかも劣化しない。このさらに上を行く硬度を持った素材は世界一硬いダイアモンドしかないほど硬い。
他方、カーボンファイバーはレジンによって固められ、強度もスチールの6倍、超軽量だが酸化することによる劣化があり、強度の減少につながるところが問題だったのだが、この新素材はそうした問題を一気に解決することができる。

CSiは日本では投げ竿用ガイドに使われたりするが、実はスペースシャトル「コロンビア号」の機体表面にも使われている。(ちなみにRCCパネル表面のシリコンカーバイド層のピンホールが小さな亀裂を導き、平成15年の墜落事故につながったのではないかと指摘されている。)

nasa station / http://members.nova.org/~sol/station/moon-p.htm
残念ながら、それが月面上の建築にどう展開されるのかという話題については、まだ具体的な成果は伺えず、工学的な耐用性といった物理的な条件のクリアに取り組んでいるように映った。地球上とまったく違う月面の厳しい環境に対し、人類の居住スペースはそれに耐えるだけの最先端のマテリアルが投入される。しかし一方で空間そのものは閉鎖的なボックスで、月面を掘って遮蔽し、建築はつまるところインフラ、いやSF的な地下都市建設の方向にベクトルが向けられているようだ(NASA発表の宇宙ステーションは一部地上にある。サイトに衛星都市など関連図版が数枚ある。)。原広司さんの「宇宙建築」は月面上に起立していたが、この講演から想像する限り、まだメタファー(目標)の段階にあるのだろうか。ただ石原教授は国家機密にかかわる研究をされているそうで、発言できない内容も多分にあっただろうとおもう。どこかの知事が隣国に対し海洋権を主張するように、宇宙でまた同じような事態が生まれても不思議ではない。

テクノロジーは自身の高度を高めるために余計な歴史・文化を脱ぎ捨てていくような自律性を持っていた。しかしその結果が何をもたらしたのかは歴史と文化が物語っている。工学が一人歩きするよりも多様な分野が参加する横断的な取り組みがあっていいはずである。だから重力も外気も存在しない非人間的空間に対して防御的な姿勢をとる一方で、その中で人間そのものがどう変わるのか(脱人間化――超人)という創造力がいまひとつ、、、、見えてこない。そのインターフェイスとして建築そしてランドスケープはどうなる?Berlage Instituteで行われた宇宙ステーションのリサーチは建築側からのシュミレーションとして示唆に富んで非常に面白かった。(参加された藤村さんにも期待したい。)一方でたとえばジェームス・タレルのローデン・クレーターのような宇宙と人間を、人間のライフスパンをこえて結ぶ場がごくふつうに生まれるのかもしれない。

テクノロジー自体もまたそうした硬直性から移りかわり、驚くほど浸透性の高いものに変貌している。我々の環境を変えている。たとえば人工有機素材の開発もめざましい。プラスチックの人工筋肉や、シリコンチップの感覚装置と生体機能を連結させる実験の成功も伝えられている。環境とテクノロジーの境界線は海岸線のように、遠く離れてみれば在るようにみえるが、近寄れば海岸線は徐々に浸食されている。

Knotted Chair 1996
プロダクトデザインの分野では先端技術との接触面積が建築に比べて大きい。現代の技術革新がなければあり得 ないデザインがかなりでてきている。Droogのカーボンファイバーで編んだ(キャスティングした)椅子のように、素材の選択はデザインの重要な部分のひとつである。(この椅子はMOMAにも展示されている。ただ実物はまだファイバーの質感がきつくソフトな印象はない。思わず手にしたくなるemotionalなものがちょっと欠けていないか?)かつてのように技術的な大量生産可能性以上に、リサイクルの可能性、素材の利用法の転換、ユーザーが個人的にカスタマイズ可能な提案などがデザインのテーマとして重要な意味をもってきている。

「日本に戻ったときはまた遊びにきてください」と気さくに声をかけてくださった教授は、これまで年間特許取得数70を長年にわたってキープされてきたが、このままだとエジソンの生涯特許取得数1200に追いついてしまうことを尊敬の意から懸念し、現在はあまり取得していないとのこと。

おもろいおじさんもいるものである。
posted at 15:29:40 on 2005-01-19 by miya

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