Seattle Central Library

Pike Place Market from above
Fish Market at Pike Place Market
Flower shop at a market place

ハイウェイバスに乗ってはじめに見るシアトルの風景は、高架から見下ろす街の風景だった。
シアトルは海岸線に沿って細長くダウンタウンが伸びている。海岸から内陸に向かって坂へと上る港町。海と丘をむすぶように、グリッド状の街割が作られ、その街区ひとつひとつの中にビルが収まっている。ビルの表情も西海岸にしてはLAのような過激さもな、く四角いボリュームがメインストリートに並ぶ。ずいぶん落ち着いた佇まいだ。ジミ・ヘンドリックスやニルヴァーナの出身地のはずなのだが・・・
こうしたビルが海抜0メートルの水平線を起点に、傾斜地の上に立体的に並ぶから、丘のほうへ登っていっても海が間近に見える。この海に向かって坂を下りると、石畳の海岸道には花や魚を売る市場が並び、街に生活観を醸し出している。スターバックスの1号店もこの市場の目の前にある。この港町の風情は神戸のようだ。・・・実際、シアトルには神戸市庁舎そっくりのガラスと石を組み合わせたビルもある。
Seattle Central Library / シアトル中央図書館に行った。オランダの建築家レム・コールハースのアメリカでの数少ない作品のひとつ。海にも歩いて数分の市街地にそれはある。
Seattle Central Library - vew from 4th avenue


大学でもたまに見かけた彼なのだが、今最も興味深い都市を見つけ出し、その変貌ぶりを分析するユニークなリサーチや掟破りの挑発的な発想をもつ彼がここでどういう建物を生んでいるのかに関心を持った。
シアトル独特の可憐で美しい町に、彼の大胆な計画や造形は何をもたらしているのか?余談だが、聞くところによると実はこの建物はOMAのNY事務所のスタッフがすべて設計したもので、REXという事務所名で最近独立している。彼らによれば「レムは何もやってない」そうなのだが・・・しかし、ここではレムのそれ以前の取り組みと関連づけてこの建物を見てみようと思う。アーバンリサーチから。
Relearning from Urban Design?

view with adjacent buildings

90年代後半からレムはGSDで学生を率いてアーバンリサーチを行ってきたことは建築業界ではよく知られている。スタジオ、日本で言う設計演習を教える替わりに、世界の都市を実地調査するという提案をレムが大学側に提案し、それがGOサインを受けたことから始まる。その調査の対象は建築そのもの形や形式などでなく、都市、つまりアーバンデザインだった。
アーバンデザインとは、かつて一般的には建物の間をつなぐエクステリアに的を絞ってきた。そこでアーバンデザイナーはもっぱら都市の景観や交通システム、ビル相互のゾーニングなどの建物の外部や環境に関心を寄せる。一方建築家は建物に専心するというのが一般的な棲み分けの仕方だった。
だがここ10年間のうちに、建築家の取り組むプロジェクトのスケールは世界的に増大の傾向にあるといわれる。フランスのユーラリール計画やバルセロナの港湾エリアの再生計画などはその一例だろう。都市的スケールの空間が建築内部に増殖している。今では都市空間はどんどんインテリア化している。
日本でもその傾向は無視できないほどになっているようだ。建築家の大田浩史さんは雑誌「10+1」43号で「アトリウム症候群」とその傾向を呼ぶ。日本の最近の建築がことごとく中庭やアトリウム、吹き抜けなどの外部スペース風の空間を建築内部に作り、内向化する傾向に着目し、「何か共通の心理的背景があるかと思えてくる」として外部環境からの自閉化(ひきこもり化)に警鐘を鳴らしている。その指摘には共感できるものがある。
インテリア化にはポジティブとネガティブの二つのベクトルをもっている。ひとつは建築と都市の境界を緩やかにして積極的な関係を結ぶきっかけをつくりうること。またその一方で、その境界が強固になったとき、富裕層が貧困層を排撃し、限られた社会層のためにのみ安全かつ快適な都市空間を囲い込むことにも利用される。特に侵入をさえぎる防犯壁と高額な会員料金は特に効果的である。ここに社会層の格差が具体的に空間化され、生活をその枠の中に規定していくのである。その板ばさみに立つのがそれに携わる人たち、たとえば設計者である。
Las Vegas built area 1972- 2000.  Project on the city, Guide to Shopping, Harvard GSD,  p596-597
レム・コールハースはこうした都市の変貌に敏感にす早く反応した建築家の一人だろう。彼の著作Project on the city 2 -Guide to shoppingというハーバードGSDで世界中の都市のインテリア化現象を調査した本を開いてみよう。そこで彼は、多くの都市開発や大規模建築の実態はショッピング空間であり、それがウィルスのようにモールやデパート、ホテル、博物館、美術館、遊園地といった建築programをshopping spaceに書き換え、建築内外の環境を食い荒らしながら都市的スケールで増殖しているのである。なかでもラスベガスの調査ではその傾向がはっきりと現れている。

Las Vegas 2004

なぜラスベガス?ラスベガスが建築界に大きく関心をあつめたのは1972年。アメリカの建築家ヴェンチューリ夫妻が「ラスベガスに学ぶ」を出版した年である。Less is more のミースの格言に対してLess is boreと茶化した彼らは、ラスベガスの目抜き通りを飾る華やかなジェスチャーをふるまう看板の景観に着目し、近代建築の単調さ、ストイシズムを批判した。こうして建築はいつしか看板を隠れみのにして、勝手に自己編集可能な対象になっていった。
日本語版では実現されなかったが、原著の英語版の紙面全体が斬新なレイアウトでデザインされ、そこにちりばめられたダイヤグラムは今でも目を見張るものがある。風景に潜む豊富な意味や要素を抽出して、それぞれをレイヤーに分けて見せるという手法は今では常套手段になっている。今日のアーバンリサーチはこの本を抜きには語りつくせないだろう。
しかしそれから30年後、ラスベガスはより大規模な拡張をとげる。ラスベガスのメインストリート沿いの建築面積は1980年には55平方マイルだったが、20年後の2000年には514平方マイル。約10倍に膨れ上がっている。年間訪問者数は約7倍にもなり、98年には3000万人を突破している。
この拡張は夫妻が注目した目抜き通りが拡張したというよりも、むしろこれまで看板の背後に隠れていた建築がより大規模な建築に生まれ変わり、都市空間を建築の内部に押し広げていった結果によるものである。新しい建築スケールが都市に変化をもたらす原動力になる。ここでは従来のアーバンデザインが専業とする「景観」「交通」「プログラム」などの概念はもはや公共空間や外部だけでは十分に影響力を行使できず、建築の内部空間に踏み込んだ視野が必要になっている。

mall of america
Disneyland-map

内部空間が閉じた場所であるかぎり、外部空間なしには自然を享受することは不可能だ・・・と、いつまでタカをくくっていられるか?たしかに何ともいえない閉塞感を感じるのだが、その「景観」すら、たとえば大きな吹き抜けの空間に植樹や水を流し、空調や電機設備のインフラを整え、心地のいい遊歩道をつくることで、外部から独立した気候帯の、「自然」までも手っ取り早く作ることが行われている。
また一方で外部空間もインテリアに変貌している。ディズニーランドは徹底して遊園地内部の敷地を囲い込む。外の日常風景を見せず、祝祭的な風情を徹底的に高めるためだ。その規模はひとつの街がすっぽり入るほどである。
そうしたとき同時に、建築自体にもある類型が生まれているようだ。たとえば昨今の建築を振り返ると、外部の姿は、内部の構造の表出よりも内部のプログラムを表すものになり、かつての看板にかわって建物自体がジェスチャーめいたものになっている。
また内部の大空間はたとえば’big box’という形をとる。どこかの企業展示会の風景を想像するといい。コンテナのようにオープンで、構造的な柱も内部にないワンルームスペースの中にさまざまな仕掛けが仕切りもなくゆるやかに配置される。パヴィリオンのように、建物の構造と関係なくブースが配置される。そこでさまざまなイベントが組み替えをし合う。そしてそれを取り囲む周辺の小さな空間を巻き込んでいくのである。
このSeattle Central Library (以下SCL)をたずねて思い浮かんだのがこうした都市空間のインテリア化だった。
なるほど期待以上に面白い建物だった。
<後編へつづく>
void space on the 5th avenue