Judd Tour: ダラス編(2) Nasher Sculpture Center/カーンの鏡像

 レンゾ・ピアノとLandscape architectのピーター・ウォーカーが協働して設計したNasher Sculpture Centerの敷地は、もともとは駐車場だった。それをダラス郊外に住むモダン彫刻の収集家Nasher氏がこの敷地を買い取り、美術館を建てて自宅のコレクションを公開している。
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 コレクションはリチャード・セラ、カルダー、ジャコメッティ、カロ、ヘンリー・ムーア、ジェームズ・タレルなどが建物内外に置かれ、それだけでも十分魅力を持っているが、建物と庭園もまたしかり。ただアジア系の身元不明人が彫刻にも目もくれず建物に眼を配り、サッシや壁をなで回しながらうろうろと歩き回るのは相当異様だったらしく、友人は警備員になかば尾行されながら館内を堪能していた。
 ロケーションは巧みに建物のデザインに活かされている。平屋に低く抑えられた建物は水平に伸びやかで、背後の高層ビルと好対照をなしている。また開放的なガラスのエントランスは市立美術館と隣接してアクセスを強めており、イベントを共同したり、さまざまな活動を可能にしている。そうした解放性がこの建物の主要なテーマとなってデザインの隅々にまで徹底されている。
 ピアノは建物と庭園、そして周囲の環境を切れ目なくつなげるために、透明なガラスカーテンウォールとガラス屋根をかけ、光が充満した空間にしている。ガラス屋根には特注の有孔アルミパネルがカバーされている。孔はフジツボのような形に3次元加工され、南側を向いたとき開口率は最小限になり、北側、つまり庭園側に視線を向けたとき、透明感が最大となって安定した自然光を室内に確保している。

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 構造デザインはオーヴアラップが担当し、繊細なステンレスロッドで吊られた10mスパン、奥行40mが5ユニット連なる屋根は信じられないほど薄い構造体になっている。この薄さが可能になったのは、一つは屋根がアーチ型断面だということで、もう一つは屋根を受ける鉄骨造の壁が鉛直荷重と水平荷重を十分受けているからということは言えるだろう。さらに壁は両側から均等に屋根の引張り荷重を受けるからだろうか、想像以上に薄く、心地よいスケール感、そして作者の名前に劣らぬリズム感を醸し出している。
 設計でいつも悩ませ、空間をしばしば台無しにする展示空間を遮る可動壁は一切ない。さらに屋根を遮る空調設備のかわりに床下空調を床の端部に設けている。ジョイントのない大型サッシ。こうした高度な技術(そしてあきれるほどのコストも)をデザインに統合し、トラバーチン(大理石)で仕上げられた壁とガラス屋根のミニマムな空間を実現している。
 外部の庭園は建物のスパンに合わせて床面のパターンがデザインされ、高木や柳、苅込などの植樹や芝、ウッドデッキ、水路、そして彫刻が注意深く組織化されている。舗道や並木は建物内部へと意識を自然に導くと同時に、庭園をゆるく区切り、心地よいスケール感と動きを与えている。ランドスケープデザインは建築にくらべて造形自体よりも自然の法則を取り込んだシステマティックな側面をもっている。それだけに恣意的な造形よりも事象の存在そのものを体験しやすい。ふだん我々が夕日をみるだけで感動するように。館内よりも庭園の方が彫刻にオーラをもちえていたのは、何か建築の抱えるそうした問題のせいなのかも知れない。