チャールズリバー

少し最近の生活の話題。やっと最高気温18度の暖かい日を迎えた日曜。最近、GSDの校舎の中にも観光客の人が目立つようになってきた。長い冬がやっと終わりつつある(その2日後にまた雪)。
sunset


なんとなくざわざわして落ち着かないので、夕方、GSD仲間のSoejima氏の住むアパートPeabody terrace(建物写真リンク)にお邪魔する。スペインからGSDに来て建築学科長を務めたセルトの設計(1962-64年)。大学からは徒歩15分ほどでやや遠いところにある。
ハーバードは大学周辺にいくつかの学校関係者向けの寮やアパート、ミュージアムなど不動産を維持管理し、徒歩圏内で移動可能な範囲でコンパクトな大学都市(地図)を形成している。建物相互の間に適度な「すきま」があることで周辺との関係を断ち切るような閉鎖感がなく、ゆるく外部につながっていく感じがある。そのせいか、小さなレンガの店が街路に連なり、アメリカ特有の大型スーパーやファーストフード店は界隈に存在しない。その周縁にはポーターと呼ばれる小さな日本人の商店街もある。
そうした環境の中でPeabody Terraceは比較的大規模な物件だ。高層タワー群と低層の建物群が入り組みながら配置する形は、セルトによれば周囲の低層住宅街にインパクトを抑え、中世西洋のカテドラルの塔とそれを囲む街のような造形的関係を念頭に置いたという。もしかしたら、槇文彦さんがかつて帰国後提唱した「群造形(group form) 」論(1960年)に、GSDに準教授として教鞭を執っておられた頃にずっと見ていたであろうこの建物は、その思想の醸成と実践にある程度関与しているのかもしれない。この設計を担当されたという話も耳にするが、真偽は知らない。
群造形論によれば、ジェネティックなフォームあるいはタイプとしての直方体状のユニットを、縦横につないでさまざまな住居などの空間タイプを形成し、街全体を構成する。ここにはワンルームの独身タイプから寝室をいくつか持つ家族向けのタイプまで、いろいろな住居タイプが用意され、公園や幼稚園まで付置されている。日曜日で人の出入りも多い。緑に埋め込まれた街のようだ。
それでもなおこの建物には外観などから「単調」といった印象批判も多かったという。その後、槇さんは「グループフォームをもう少しゆるやかに解釈して、多少変形するにせよ一つの形態を繰り返すのではなくて、多様な「リンケージ」でつなぐことを重視すれば、形態に厳密な一貫性がなくても、あるまとまった集合をつくることができる」と考え、形態も表現も変えていったのは、現在の集合住宅の系譜を見る上でも興味深い。

carpenter center

グレーのドアを開けて部屋を入る。コンクリートの天井と壁にとくに下地補修もなくそのまま白くペンキが塗られている。構造壁でない間仕切り壁には鮮やかな赤。床は濃灰のPタイル。窓のディテールや色の構成は校内にあるセルトの師であるル・コルビュジエ設計のカーペンターセンター(左写真)と同じものだ。このプロジェクトはセルトの強い推薦でル・コルビュジェが設計者として指名された。そしてセルトはこのプロジェクトの監理を引き受けている。どの程度カーペンターセンター(1958-63年)の現地設計にセルトが関与していたのか。同じように天井のスプリンクラーや感知器はメンテナンスも配慮してか、そのまま配管ごと露出されている。そのため夜になると地下室のバーみたいな雰囲気になるそうだ。建物がどんなふうに造られ、なにがどう働くのかがエクステリアからインテリアまで一貫して現れている。
天井は手が届くほど低いが、間口2間程度で部屋のプロポーションがきれいで、また突き当りの天井高さいっぱいの窓のせいで、かえって落ち着きが感じられる。そのまま奥に向かうと1階の西向きフルハイトの窓。窓を開けると芝の庭でこどもたちが走り回る。テラスから足をもう一歩庭に伸ばせば隣3軒の人と目が合いそうだ。その向こうには夕日を映すチャールズ川が見える。川沿いの大通りはジョガーたちが道を往来する。並木の向こうの川にはボートをこぐ人たち。そして対岸の人たち。いろんな人の往来と歓声の層が奥行きのなかに重なりあい、夕日を背景にシルエットになる。夕闇の迫る中でしばらくじっとそれを眺めていた。

14年前
  1. すばらしい夕日ですね。
    空の色を考えると、無限の変化をする。
    その仕組みはおいといて、
    感動は、人それぞれの“記憶”から広がって行く。
    僕が感じたあの空と、誰かが感じたあの空はまったく違う“感動”のはずだ。
    “記憶”は私達に色々な発想を与えてくれる。
    未来プロジェクト:http://www.glohdesign.com/a…

  2. 美しい写真ですね。
    Peabody Terraceは一度だけお邪魔したことがありますが、
    こんな意味があるとは思いませんでした。。

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