HANIF KARA 講演

Wolfsburg Science Center
先週はいつもより多めにレクチャーを受けた。大きなものでは週末の金曜土曜にLoopholeという名の建築カンファレンスがGSDで開かれ、現在、そして次世代に期待される建築家と評論家が集まった。これは建築雑誌praxisの編集長を務める女傑Ashleyが打ち上げた大型花火だった。これはまた改めて覚え書きしたい。
もうひとつはいつものToshiko Moriさんの講義で招かれた石原教授が火曜に、そして木曜に構造家のHANIF KARA
ウガンダ出身で現在ロンドンに拠点を構える彼は、Zaha HadidやFOA(BBC Music Center)、William Alsop(Peckham Library)、Fosterのプロジェクトに参加している。彼もこれまでの構造家と同様に、3次元の解析を通して複雑な形態の構造デザインを可能にしている。しかしそれとはまた別に、実践的で汎用性の高いソリューションも強い説得力を持つものだった。

worfsburg

ザハのWolfsburg Science Centerがコンペに勝利したとき、彼は内心どう実現すべきか困惑したという。まず手始めに複雑で流動的な造形に対して、足元のコーン型のピロティが上部の無柱の巨大な箱を支えるという構造形式と見なすからスタートする。群島のように偏在するピロティは鉄筋コンクリート、上部の箱はグリッドに分割された鉄骨トラス(SRCと混合か)の構造に分節する。上部スラブからメルトダウンするかのようなコンクリートのコーンはすべて傾斜しカーブしているため、3次元で形態を解析し、それぞれの位置は建築家の意志に沿って隣接する環境にスムーズに結ばれるよう位置を検討していく。
同時に上部トラスは厚みを調節することで荷重分布の偏りを調整する。トラスの部材を統一し、そこにコンクリートを流し込む。コンクリートは再利用可能な、おそらくウレタン製のコンクリートの型枠と配筋を海外で安く工場製作しコストダウンと安定した施工精度を実現している。非荷重壁の外壁はプレキャストコンクリートで複雑な開口デザインもきれいに仕上げ、かつ短工期で施工する。結果としてザハのオリジナルの図面のままに実現されている。(施工プロセスの写真はここを参照)
彼はコストを抑える代わりにその技術力によって、通常以上の設計料を得ることを可能にしている。そこで得た利潤を自身の研究所のリサーチに費やし、次のプロジェクトにそれを応用させていく。新しい技術の前線に向かうには、アカデミアと実践の相互作用からの新しいセオリーと技術の創造が重要なのだ。
こうしたプロセスで最大限の結果を得るためには、事務所に柔軟な組織編制が重要で、従来のピラミッド型のトップダウン方式では十分に機能しないと言う。経験値がすべてに優先する徒弟制の強い日本の建築業界とは大きく違う。(逆にアカデミズムと建築実践が乖離し、ドライな契約にものを言わせがちなアメリカ型の事情も日本の建築事情には向かないと思う。)「その代わりに」と彼が示したのは、彼の作品でもあるLondon School of Economic Library (設計Norman Foster)螺旋スロープに彼のスタッフが並んで写る写真だった。螺旋構造は遺伝子のように、コンパクトで緊密性が強いが、強い中心はもたない。こうして上下関係が柔軟かつ密接にコンタクトし合えるスパイラル型の組織にすることで、情報を前線からすばやくつかみ、多角的に分析し、すばやく決断を下すことが自分には必要なのだと語る。

peckham front view
back view

ある戦略そして革新を生み出すためにはまず、自分の専門領域をオープンにした広い視野をもち、過去と未来を結ぶ必須条件を作ることが必要なのだと彼は強調する。新しいテクノロジーはこれまでのテクノロジーとちがって継ぎ目がなく流動的な形態を可能にしている。このとき、デザイなーとクラフツマンの結束があらためて重要になってくると言う。たとえば、彼の取り組みには一貫して、すべての部位が異なる形状をもつが、どんな形でも対応できるアジャスタブルなルールを創造し、既存の生産システムに結ぶことで、プロジェクトの実現を果たしている。そうしたルールが実現可能であるよう、既存のシステムをうまく応用しながらある種の普遍的な解決法を導くということだろう。
そして彼によれば自身が何より関心を持っていることは、テクノロジーがもたらすマクロな視点や複雑性そのものだけでなく、それがどのように社会的な文脈に機能することができるのかということだった。そこに彼の出自がどう影響しているのかはわからない。しかしそうした意味で、Peckham Libraryのようにいろいろな社会層が混在するこの地区に不足していた大きな公共的スペースを設けた大胆な構造体はそうした取り組みの一端を示すものだと言えるだろう。厳しいローコストだったにも関わらず、既成のパーツを最小限の数で構成して作られた建物は、テクノロジーを結集したクリアーな構造体の結晶と言うよりは、入手可能なパネルやトラス、ベニヤを寄せ集めたブリコラージュといった方がいいようなたたずまいだが、こうしたハイブリッドなものであってもここまで出来るというのは新鮮に感動を受ける。

FOA project

最後にMoriさんに学生に何か励ましになる言葉をとリクエストされた彼は、コミカルな挿絵を示し、つまるところ、建築家とは回転木馬の反対側にくくりつけられた、なにか新しいデザインという「餌」を捕らえようとぐるぐる走り回り、いつまでも回転木馬を回転させつづける「犬」であり、それに対して構造家とは建築家の新しいデザイン、新しい技術に対していつもリスクにおびえつつ、何か新しいものに挑戦する種属なのではないか、そう自身を率直に語って講演を締めくくった。あどけない犬の戯画を背後にして、奇妙な納得の笑いを巻き起こしながら。

14年前
  1. はじめまして、河の反対側、ビジネス・スクールに留学中のDaisukeと申します。デザイン・スクールのMiwaさんにご紹介いただきました。以前、miyaさんのサイトを偶然発見し、すごくセンスいいなぁ、そう感動したことがあったので、めぐり巡って繋がったことを嬉しく思いました。先日の日本人会でお会いできなかったのは残念ですが、また近いうちにお話させていただければと思います。取り急ぎ、ご挨拶まで。

  2. おお、Daisukeさん、こんにちは。Daisukeさんのサイトはいつも拝見しています。そのせいか、なじみのような気がします。忙しい時間を全力で駆け抜けるように、コンスタントにとても興味深い内容を書かれている。敬服します。
    (勝手ながら当方にリンクさせていただいてます。)
    先日の日本人会は実は当日まで何も知らされてなかったので、どうにも出席できず、お酒の代わりに涙を飲みました。5月10日までスタジオワークのプレゼンテーションでドタバタしていますが、またぜひ、こちらこそご近所付き合いでお話を聞かせてください。鍋しましょう(もうそんな季節でもないか)

コメントは停止中です。