Jörg Schlaich / Best Invention

Resource Wars

World Resources Instituteによると、世界の人口は2025年頃には80億人に達するという。人口増加のほとんどは発展途上国によるものであり、先進国の人口は横ばいをつづける。 とくに途上国都市域の急増ぶりが目覚しく、2015年には世界の58のメトロエリアに全人口の過半数が住み、そのうち48は途上国にある。
それに応じてエネルギー消費量もその地域の需要に応じて上昇している。だが途上国の経済力は先進国とは大きくかけはなれており、インフラも不十分でますます深刻なエネルギー不足に見舞われる。同時に急激な人口増加は農地の荒廃と環境の破壊を拡大していく。しかしエネルギー消費の4割はいまだ石油に依存しており、資源の枯渇が予見されている。
ちなみに最大消費国は群を抜いてアメリカである。たとえば各国の電力消費量(またはここを参照)を見ても断突の一位。二位は中国、次いで日本。セントラルヒーティング(個別空調がきかない)のアパートで、外気温がマイナス10℃の真冬でも室内が暑くなるほど暖房をかけて、Tシャツ一枚になって窓を開ける彼らの生活ぶりを見ると、それも当然かなと思う。中国の内陸出身の友人は、実家では外套を着て寝ていたという。しかし最近急激に進出した新しい高級マンションは冷暖房が完備されてそれまでとは比べ物にならない。大量の中国の人々が車を買い、ライフスタイルもアメリカ人と同様になったとしら・・・


ちなみにわがGSDの校舎もガラスの屋根、壁+巨大な吹き抜け+単層ガラスというアンチ・エコロジーの三位一体をなしており、恐ろしく空調効率が悪い。これは設計された70年代の技術の限界でもあり、今ではそれを改善するためにリサーチの授業すらもある。唯一の罪滅ぼしは23時になると空調が一気に止まることだが、おかげで真冬の深夜は窓際の席(僕の席)では冷蔵庫よりも寒くなる。手袋をして設計する人がいたほどだった。そして朝をむかえるとガラス窓から刺すような太陽光でモニターの文字すら読めなくなる。昼の太陽光を夜の極寒に回せたら・・・と願ったりもしたものだった。

Munich Olympic Roof

ドイツ、シュトットガルトの構造エンジニアJörg Schlaich(ヨルグ・シュライヒ)は、こうしたワールドスケールの問題に正面から取り組むひとりである。
白髪のショートヘアに丸い銀縁メガネをかけた彼は、フランク・ゲーリーなどの建築家とのコラボレーションでもよく知られ、大胆な造形を合理的に実現してきた。日本では斉藤公男さんの著作「空間 構造 物語」に紹介されている。
その彼がそうしたプロジェクトとは別に、講義の締めくくりに彼自身が研究所で取り組んできたプロジェクトとして、また聴講する学生に贈るメッセージとして、この大きな問題に対して自分がどう取り組んできたか、そして今後の可能性を説明した。にこやかにフランクなトーンでありながら、それは力強く建築構造エンジニアがエネルギー問題にも貢献する可能性を十分予感させるものだった。
それまでフライ・オットーの元で主任エンジニアとして活躍した彼は、彼の元でミュンヘン・オリンピック(1972)の屋根を始め、テンション構造による薄いテント膜構造にも取り組み、最小限の重量で大規模の構造体を実現してきた。ミュンヘンオリンピック会場(写真上)では、複雑なケーブルネットの屋根形態(写真)をもつ構造解析—4000元の高次方程式を解く—に初めてコンピュータが導入され、その担当責任者が彼だったという。複雑な現象の中からそれを生み出す法則を見出し、そこに構造を与えるという姿勢はこの頃から一貫した彼の姿勢でもある。また同時に軽量で最大の効果を獲得するフラーの普遍的な考え”Light weight structure”の知識と経験を受け継ぎ、環境にインパクトを与えず世界にエネルギーを供給できる太陽光発電システムの開発に取り組んできた。
Dish-Stirling System
Dish and environment
ひとつはDish-Stirling Systemというものである。鏡面に仕上げられた金属面がパラボラアンテナ状の形をとる。それが朝から夕方まで回転しながら太陽の運行に追従し、パラボラの鏡面から反射された太陽光を焦点にある集光器に一点に集める。そこで700℃近くまで熱を収集し、それを発電機に送り電気エネルギーに変換する。この技術は精度の高い建築構造体を実現した建築技術の成果であり、金属シートの厚みはわずか0.5ミリである。
詳しくはこちらまたはJorgの公式説明書を参照)

Dish Stirling System

こうして、ダムのように大規模な労力を必要とせず、軽量で火力発電のように排気ガスによる空気汚染も発生しない構造体を実現している。まだまだ建設コストは高いが、このシステムは太陽熱の豊富なオーストラリア、アジア、アフリカに適しており、その地域の貧しい国への貢献が期待されているという。
The Solar Chimney
solar chimney
より大規模で効率の高い発電システムがThe Solar Chimney Power Station(ソーラー・チムニー)である。原理は非常にシンプルで、暖かい熱が上昇する原理を利用したものである。ガラス屋根の下に敷かれた黒色のセラミックの砂利が太陽熱を集める。集められた太陽熱はガラス屋根を伝って放射状に配置されたガラス屋根の中央に立つ煙突に集まる。集められた熱気は煙突内部を上昇し、その力でタービンを動かし、電力に変換される。
このプロトタイプはすでに1989年、スペインのManzanaresに完成し、その効果を立証している。2005年にはオーストラリアのMilduraにさらに改良されたソーラー・チムニーが完成される予定である。ここでは200メガワットの電力が期待され、その規模は人口20万人程度の地方都市をまかなうことができるという。その高さは1km、直径12mにおよび、世界で最も高いタワーとなる。タワーは伸縮可能な鉄筋コンクリートで造られる。その周囲には直径5.6kmのガラスの円形屋根が取り囲む。地平線の見える荒野がその背景になる。そのスケール、姿からすれば、これは無人の都市といってもいい。
余談だが、興味を引くのは師のフライ・オットーが自然がもたらす生物学的な形態(例えばクモの巣)からインスピレーションを得て有機的かつ合理的な造形を追求したのに対して、このプロジェクトはシステムがそのまま形になったように見受けられるが、どうだろうか。
System:http://en.wikipedia.org/wiki/Solar_chimney
このソーラー・チムニーには多くのメリットがある。
1)明らかにこのシステムは温室効果を促進する二酸化炭素やメタンを排出しない。もしも石油で200メガワットに相当する電力を生もうとすると830,000トン/ 年のCO2が排出される。
2)メンテナンスが容易で24時間フル稼働することが可能である。これは風力発電とは大きく異なる点である。システムがシンプルなので塔の内部においてもメンテナンスが容易で、稼動中もメンテナンスが可能だという。危険をともなう原子力発電とは大きく異なる。
3)光合成する細胞と違って、このシステムは太陽の拡散光と直射光どちらも有効に使って空気を暖める。したがって年間曇りの多い地域にも十分有効である。

section

しかしまだいくつかの取り組むべき問題も残されている。
1)ソーラー・チムニーの多くは砂漠の中に建てられるだろう。砂漠は日射の35−45%を反射している。しかしソーラー・チムニーの集熱パネルは逆に日射を吸収する。これは砂漠地域の日射反射率を変える要因にもなり、結果としてその気候を変えてしまうかもしれない。タワーの頂上からおよそ60℃の空気が噴出するが、それは高度1kmの周囲の気温よりも50℃以上高い。(参照はこちら
2)もうひとつの問題はタワーの頂上から排出される湯気である。通常、冷えた空気は降下して湿気をおびる。そして風に運ばれ、こうした降雨は砂漠よりも南北極に近い地域にそそがれる。しかしこの煙突からの高温で乾燥した空気は砂漠地域の空気に放出されることによって、この地域の空気が冷えて降下することを妨げるかもしれない。この結果、砂漠地域に近い地域を砂漠化してしまう恐れがある。
3)この湯気にはさらに問題を含んでいる。スウェーデンLuleå工科大学のBo Nordellによれば、人間が発電などで地球上の温度を高めているという。これは温室効果とは別の理論である。通常地球は太陽光の35%を反射している。残りの太陽光は地面に吸収され、徐々に熱を放散していく。その多くは大気に吸収される。しかし火力発電などによって地球上の熱は大気圏内に残ったままになっていく。ソーラー・チムニーは相当量の空気の気温を高めるため、こうした問題をさらに深刻なものにしてしまうかもしれない。
しかし火力発電が温室効果だけでなくこうした問題を輻輳して発生してしまうのに対し、ソーラー・チムニーはいくつかの問題を克服することが出来る。1972年にはオイルショックにより注目を浴びたこのアイディアも、80年代に石油の値段が落ち着くとやがて忘却されてきた。しかし環境問題がより大規模になり、この技術が大きな進展を見せてきた今、また再び大きな注目を浴びている。現在、スーダン、ガーナ、インドなどがこの技術に強い関心を示している。

Jorg and Schober

このプロジェクトはTIME誌で2002年のBest Inventionに選ばれたという。
なによりも強く関心を引いたのは、普通あきらめてがちな壮大なヴィジョンに一人の構造家が正面から取り組み、着実に成果を上げていることである。シンプルなアイディアから出発して試行を深め、リサーチから設計、製造、建設まで一貫して見通し、誰も出来ないと思われたことを実現させていくその過程は彼のすべてのプロジェクトに一貫した態度だといえる。彼の師フライ・オットーが地球の限られた資源を意識して最小限の部材で最大の効果を得るLight weight structureを生みだしていったように、その弟子である彼もまた、その師の姿勢を彼の活動を通して見事に引き継ぎ発展させているといえるだろう。

13年前
  1. 世界のエネルギー消費量を示すリンク先のサイトですが、これをアップしてから3時間後にリンク先データを再チェックしてみると、どういうわけか1位のアメリカがランクから忽然と消えてますね・・・そのまま2位3位が1,2位にシフトしている。(下のコメント欄にはアメリカの突出具合を書いたものが多いにもかかわらず、アメリカがチャートに出てこないのは不自然。)
    まあこれも偶然かもしれませんが、ひとまず別のリンクもつけておきました。world resource instituteの統計です。こちらにはアメリカもきちんとランクに入っています。ただし多少、前者とは統計値に違いがあります。ご参考までに。

  2. 久しぶり。
    先週まで中国でした。
    中国での貧富の差は物凄い速さでますますひらいているようです。
    貴殿も書いていますが、都市部に様々なものが集中してしまい、地方は取り残される一方。
    例外的に一部の地方では、観光でかろうじて外貨獲得ができるわけで、またこれが生半可な観光開発じゃない。
    彼ら(主に原住民ではない漢民族)にとって「世界遺産」とは金儲けの手段でしかないね。
    それと、そこに後ろから加担しているのが表向きには遺産保護団体をうたうアメリカのコンサルってわけ。
    このまま研究を進めると、確実にユネスコを含む様々な機関を敵に廻す事になって、行き詰まる可能性が大だ。
    どうするかなあ。
    ところで、いつ日本に帰ってくんの?
    まあ、しばらくは帰らん方がいいかもね。

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