BASEL Oct 25 05 (Mon)

Basel-View
「ここから見える風景はバーゼルの特徴をうまくあらわしている」
そう話しかけるピエールとジャックの指す方向に目を向ける。
場所は丘の上のレストラン。とはいっても国境をこえたドイツ側にある。旧い集落の一角に立つレストランはどこにでもあるような田舎風の建物で、地元の人しか知らないような気取りのないレストランである。70過ぎているのかなと思わせるおばちゃんが給仕をしている。よくオーダーをとり間違えるのがかわいらしい。目の前に広がるワイン畑で取れたらしい白ワインがうまい。
テラスからはライン川、緑地帯、山といった地理的特徴がみえる。それに囲まれた領域のなかに旧市街地や集落が点在する。また一方で空港やハイウェイ、鉄道が国境をこえて拡がっているのがわかる。ドイツ、フランスに国境を接するバーゼルはそれぞれの地域が独自のまとまりを持ちながら同時に、国境をこえてより大きなスケールの多中心的なネットワークを作っている、そんなことを実際の目で示したかったのだろう。

Pieere at theater

この日は朝から「劇的」な幕開けだった。文字通り、朝9時半に集合したのはこじんまりした市街地の美術館脇にある劇場。そこに集まったのは、われわれGSDとETHの学生たち、そして昨日会った助手の研究スタッフ、H & de Mの二人。そしてゲストたち。ETHの学生が20名程度いることもあって総勢40人程度はいるだろうか。庭先でピエールと久しぶりに歓談して「劇場theaterで始めるのはなかなか劇的theatricalだね」と冗談をかわしているとジャックが現れる。Tシャツにピンストライプの紺のスーツ。強い握手と覗き込むような目線にただ者でないオーラを感じる。
それはともかく、劇場ではまずジャックとピエールがステージ脇に立ち、集まった人たちに歓迎の言葉とリサーチの紹介をした後、ジャックがWhy Canary Islands?と題して自身の体験談を交えながら今回のリサーチに至った経緯と狙いを紹介。彼らは最近カナリア諸島のプロジェクトを抱えているが、カナリア諸島を訪ねて以来、これまで見たことのない都市現象に出くわしている。これまでにもパリやナポリ、カサブランカ、スイスなどを同様に調査してきたが、たしかにEUの辺境にあるカナリア諸島とEUの真只中の「孤島」スイスはお互いにEUに対して完全に加入するでもなく隔離するでもない「グレーゾーン」的な関係をとっており、政治的に似た状況にあるといえるかもしれない。このようにその地域の特異なコンテクストはグローバルなコンテクストが背後に控えている。つまり特異性とはグローバルなスケールとの関係によってカテゴライズされることがあるといえるだろう。

canaria's city

ジャックのいうように、今回はそこでおきている現象をロマンティックなゲニウス・ロキ的な解釈でアプローチし現況を批判するのでなく、都市を地理学的アプローチから理解し都市の変容の内的な構造を理解すること。そしてそこに都市の新しい可能性をそなえた特異性を見出すことが期待される。そこでは統計を前提にしたリサーチにもとづいた可能性の創造力と同時に、実際のフィールドワークに基づいた経験的なリサーチの両方が都市のリアリティを与えるものとして求められる。よりパワフルで柔軟な方法で世界を観ることで、われわれが何者であり、都市がこれまでとまったく違った、どんなリアリティに導くものかを見極めるものになる・・・。
その後バスに乗り、H & de M自らがガイドをしてくれる。ヴィトラ社のデザインミュージアムを案内し、ドイツ側のバーゼル市内を走り、丘の上のレストランにたどり着く。その道のりは大きな幹線道路を走るのでなく、市街の大小さまざまな街区やフィールドをたどってようやく目的にたどり着くこと自体、都市の大小さまざまなネットワークを通り抜けるショート・トリップだったといえるかもしれない。それだけに到着地のレストランからみえる風景は上空から俯瞰するだけのものでなく、それまでたどってきた道のりがどこにあるのかを確認しながら思い浮かべるという、今後のリサーチの基本的な姿勢そのものをほのめかすものだった。
ここでも東工大から交換留学でETHに来たというKonnnoさんに会う。貝島さんと同様のプログラムで、スタジオだけを取ってこれから一年ほどETHにいるという。他にも地元ETHの学生や助手の人たちと話しを交わす。

distribution of inernet domain in San Francisco

それはおいといて、助手の人が都市の特異性が先験的にあるものという話は面白かった。特異性とはその都市のアイデンティティである。また同時にさまざまな都市に内在する葛藤や矛盾の存在によって生まれるものである。そのバランスを通して都市はさまざまな人の振る舞いを受け入れると同時に拒否する。特異性とはもはや一般的に言われるようなゲニウス・ロキやタイポロジーによって記述されるユートピア的存在でなく、時にはコントロール不能でもあり、さまざまな意思の格闘のベクトルでもある。それをオランダで展開されたプログラム的アプローチに対して、そうしたベクトルを地理的レイヤーにオフセットして地域の形を読み直すことである。
そしてそれは見えない地理的特性なしに記述することはできない。たとえば地下鉄や下水道などのような見えない構造体、あるいはインターネットのドメインやのような見えないネットワークの位置を示す地図を見たとき、われわれはそれが普段見慣れた地図と違うので、一瞬どの都市なのかを言い当てることができない。一般的なものと特異なものは鏡像のように補完関係にある。このような都市的側面は近代都市に一般的なvocabularyでありながらも、同時にそれは新しい都市の特異な相貌をしめしている。また、そうした都市の内的構造のレイヤーの重なりを通して都市の特異性は浮き彫りにされることがある。またこうしてテロリストは、もっとも効果的な攻撃をとるために特異性を透視する能力を備える。

IP address in London

マッピングは二つの側面をもつ。ひとつは警察や水道局の管理地図のように、テクノロジーによって強化された地図は確実に都市の情報コントロールを強化し”デジタル・パノプティコン”とでもいうべき状況を生み出している。もうひとつは個人それぞれが独立したドメインをもつことであり、絶えず変化するイベントの間を漂流することである。そのふたつの葛藤のなかにそれぞれの都市の意思が見え隠れする。
フランシス・フクヤマのいうように、たしかに我々はユートピアなき歴史の終わりにいるといえる側面もある。たしかに近代をリードした闘争はなりをひそめ、都市においても革命的な全面的都市改変はもはやほとんど意味をなさず、それが実現される前にある意味で、すでに都市は情報インフラのように計画者の創造力の先をとうにこしている。しかし一方で、9/11以降、グローバルな運動によってそれぞれ特異な現象を引き起こしている。西側諸国の都市がどこがテロリストのターゲットになるのか「要塞化」を議論するなかで、交通やインフラ、人種、階層などを通してそれぞれのエリアの特異性が意識的になったのはその一例だろう。
ポール・ヴィリリオのいうように、テクノロジーによってもたらされた世界は痛みを我々にともなうと同時に新しい性格を都市に与えているといえる。

Population in London area

その後、現地カナリア諸島から招かれたV. Martin Martin教授 (Universidad de La Laguna) に講演を頂き、カナリア諸島がどのように開発され変化していったのかを伺う。都市の新しいアプローチの可能性を探る、充実したスタートだったといえる。一日中ホストを務めてくれたH & de Mにも心から感謝したい。

13年前